1.婚姻の「形式的成立要件」
(どんな手続きをすれば正しく婚姻が成立するか)
日本人同士が日本で結婚しようとする場合、日本の戸籍法の定めに従って市区町村役場に婚姻届を提出することになっています。そして、その届出に問題がなければ受理され、その時点で婚姻が成立することになります。(民法第739条・第740条)
このように、「どんな手続きをすれば正しく婚姻が成立するのか」が婚姻の「形式的成立要件」と呼ばれている問題です。
ここでは、在日コリアンの皆様が日本で結婚しようとする場合の「形式的成立要件」についてはどのように考えればよいのかをみていくことにします。
日本の「国際私法」である「法の適用に関する通則法」では、婚姻成立のための「形式的成立要件」について、第24項第2項及び第3項で以下のように定めています。
第ニ十四条 2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。 3 前項の既定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りではない。 |
上記の規定をやさしく言い換えてみると次のようになります。
(1)婚姻の方式(つまり、手続き方法)は、「婚姻挙行地」の法律に従って行えばよい。
(2)結婚する当事者のどちらか一方の「本国法」に従って行ってもよい。
(3)ただし、「婚姻挙行地」が日本であり、かつ、結婚する当事者のどちらか一方が日本人であるときは、必ず「婚姻挙行地」(つまり日本)の法律に従って行わなければならない。
これより、在日コリアンの皆様が日本で結婚しようとする場合に採り得る婚姻の方式は、以下のとおりになります。
結婚相手 | 採り得る婚姻の方式 |
在日コリアンの場合 | ●日本の方式(婚姻挙行地法) ●韓国の方式(当事者の本国法) |
日本人の場合 | ●日本の方式(婚姻挙行地法) |
その他(日本人以外)の外国人の場合 | ●日本の方式(婚姻挙行地法) ●韓国の方式(当事者の本国法) ●結婚相手の本国の方式(当事者の本国法) |
上記より、もし在日コリアンの方が日本で日本人と結婚しようとする場合には、必ず日本の方式によらなければならないことになります。
日本の方式とは、冒頭の例で説明させていただいたように、日本の戸籍法の定めに従って市区町村役場に婚姻届を提出するという方法です。
一方、在日コリアン同士が日本で結婚しようとする場合には、日本の方式でも韓国の方式でもどちらでもよいということになります。
韓国の方式とは、以下のいずれかになります。
(1)駐日韓国総領事館で申告する方法 (いわゆる「領事婚」) |
・「大韓民国民法(대한민국민법)」第814条では、「外国にいる本国民間の婚姻は、その外国に駐在する大使、公私又は領事に申告することができる」と規定しています。 これより、結婚当事者がそろって駐日総韓国総領事館に出頭して婚姻申告することが可能です。 ※ただし、「韓国国民」であることが前提となりますので、韓国の家族関係登録簿に出生事実が記載されていない場合や韓国の「在外国民登録」を行っていない場合には難しいものと思われます。) |
(2)韓国の役所に直接申告する方法 | ・「大韓民国民法(대한민국민법)」第812条では、婚姻は、「家族関係の登録等に関する法律(가족관계의 등록 등에 관한 법률)」の定めるところにより申告することによってその効力を生じる」と規定しています。 具体的な方法としては、「家族関係の登録等に関する法律(가족관계의 등록 등에 관한 법률)の定める所定の婚姻申告書を作成し、日本から韓国の市庁・区庁・邑事務所・面事務所等に直接郵送することになるものと思います。 ※ただし、この方法についても、上記(1)同様、韓国の家族関係登録簿に出生事実が記載されていない場合には難しいものと思われます。) |
【報告的届出】
上記のとおり、在日コリアンの方が日本で結婚しようとする場合、日本の方式あるいは韓国の方式のどちらの方式で届出を行っても婚姻は有効に成立します。
ただし、日本の方式で届出を行った場合、その結果が自動的に韓国の「家族関係登録簿」に反映されるということはありません。
その場合、韓国国民であるという認識を有している在日コリアンの方については、韓国側への届出も行っておく必要があります。(ご参考までに、その届出のことを法律用語では「報告的届出」と呼んでいます。一方、最初に婚姻を成立させるために行う届出のことを「創設的届出」といいます。)
この「報告的届出」の方法は、上述の「韓国の方式」に準じた形で
(1)駐日韓国総領事館で申告する
(2)日本から韓国の市庁・区庁・邑事務所・面事務所等に直接郵送する
のいずれかの方法によることになります。
※ただし、この場合も、韓国戸籍に出生事実が記載されていない場合には届出をすること自体、難しいものと思われます。
2.婚姻手続きのための必要書類
一般的に、日本の市区町村役場では、外国人から婚姻届の提出があった場合、その当事者が婚姻に関する「実質的成立要件」を満足していることを証明する書類の添付を必ず要求しています。
その書類は法律用語としての一般的な呼称として「婚姻要件具備証明書」等と呼ばれています。
なお、2008年に現在の家族関係登録制度が施行されるよりも前の時代(つまり従前の「戸籍制度」が運用されていた時代)においては、韓国政府(※実務上は「駐日韓国総領事館」)が「婚姻要件具備証明書」の発行事務を取り扱っていました。
その時代に発行されていた書類は実際の名称としてもまさに「婚姻要件具備証明書」というタイトルでした。
一方、現在(2008年の家族関係登録制度施行以降)においては、実務上、韓国政府(「駐日韓国総領事館」)側は原則として「婚姻要件具備証明書」の発行事務を行わない方針を打ち出し、日本政府側もそれに呼応して従来のような「婚姻要件具備証明書」の提出を要求しない方針を採っています。
とはいっても、上述のとおり、当然ながら婚姻手続きに際しては当事者が婚姻に関する「実質的成立要件」を満足していることを証明しなければならないことには何ら変わりはありませんので、要は、提出すべき書類の取り扱いに変更があった・・・ということです。
★現在、 在日コリアンの皆様が日本の市区町村役場に婚姻届を提出しようとする場合、具体的には以下の書類の提出が要求されています。
●現在の家族関係登録簿の制度に基づき発行される「基本証明書」及びその「日本語翻訳文」
●同じく「婚姻関係証明書」及びその「日本語翻訳文」
上記2種類の証明書(及びそれぞれの日本語翻訳文)を準備すれば、日本の市区町村役場に婚姻届の提出を行う際の添付書類としては必要十分です。
※しかしながら、全国の市区町村役場の中には、依然、従来どおり「婚姻要件具備証明書」を提出するように・・・といった誤った要求をしているところもごくわずかではありますが残っているようです。
★もし、不幸にもそうした「旧態依然」とした要求をされてしまった場合には、堂々と以下のように申し出て確認を促すとよろしいかと思います。
●「それは『過剰な要求』であり、現在の実務上の取り扱いとしては、「基本証明書」及び「婚姻関係証明書」、並びにそれぞれの「日本語翻訳文」を提出すれば必要十分であると聞いている。
●その取り扱いについては、韓国と日本の政府間の合意に基づくものであり、全国的に統一した取り扱いがなされているはずである。もしその点について疑義があるなら、上部機関である「法務局」に確認をとってほしい。
・・・上記のような対応を取ることにより、役所側の誤った取り扱いを是正してもらうことができるはずです。
不当な要求に屈して過剰な書類を準備する必要はありませんので、もし上記のような(不幸な)ケースに遭遇してしまった場合には、泣き寝入りせず、役所側に堂々と申し入れをなさってみてください。
なお、上述のように「基本証明書」及び「婚姻関係証明書」が準備(取得)できるのは、当然ながら、現在の制度に基づき韓国の「家族関係登録簿」に当事者(婚姻されるご本人様)の身分事項が登録されている場合に限られる・・・という点は言うまでもありません。
しかしながら、韓国の「家族関係登録簿」にご自身の身分が登録されていない・・・在日コリアンの方も少なからずいらっしゃるのが実情です。(・・・二世以降の「朝鮮籍」の在日コリアンの皆様については、概ねこのケースに該当していらっしゃるものと思われます。)
では、このような場合にはどうしたらよいのでしょうか。
日本の市区町村役場では、韓国の「家族関係登録簿」に基づき発行される「基本証明書」及び「婚姻関係証明書」が物理的に(・・・言い換えれば登録されていないという「事情」のために)提出できないケースについては、その代替として「申述書」といった書類の提出を求めています。
その内容は、韓国の「家族関係登録簿」に基づき発行される「基本証明書」及び「婚姻関係証明書」が提出できない事情を説明し、併せて、「婚姻要件(=婚姻の実質的成立要件)」を満たしていることを自己申告するものです。
などとご説明しますと、一見、「作成するのが難しそう」・・・とお感じになられてしまうかと思われますが、ご心配は不要です。
通常は「定型の書式」としてあらかじめ市区町村役場に備え付けられてある場合が多く、役所の窓口で事情を説明すればその書式の配布を受けられます。後は、その書式にご署名・ご捺印等を施すだけで容易に完成させることが可能です。
なお、通常、「申述書」で代替する場合には「住民票」等の提出も併せて要求されるものと思われますので、指示された書類を準備の上提出します。
上述させていただいた点をを踏まえ、在日コリアンの方が日本の方式で日本の市区町村役場あてに「創設的届出」(最初に婚姻を成立させるための届出)を行い、その後駐日韓国総領事館で「報告的届出」(婚姻が成立したことを事後報告するための届出)を行うケースを想定した場合の、それぞれの手続きに関する必要書類について整理してみたいと思います。
結婚相手 | 必要書類 | |
「創設的届出」 (最初に婚姻を成立させるために日本の市区町村役場で行う届出) |
「報告的届出」 (婚姻が成立したことを事後報告するために駐日韓国総領事館で行う届出) |
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在日コリアンの場合 |
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日本人の場合 |
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★添付書類要に関する一部取り扱いの変更について【重要】 今後当該申告をご予定されていらっしゃる皆様はくれぐれもご留意ください。 ※なお、現状、上記のような状況(取り扱いの変化)について当サイト運営者が直接確認しているのは韓国大使館領事部(※東京所在の韓国総領事館)のみですが、これは韓国本国側の方針変更に伴う・・・とのことですので、他の地域を管轄する総領事館でもおそらく同様の取り扱いがなされる可能性が高いものと推察されます。 ※いずれにしても、申告に際しての必要書類については、申告を行う予定の(=住所地を管轄する)駐日韓国総領事館に事前に必ずご確認ください。
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その他(日本人以外)の外国人の場合 |
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※「報告的届出」 に関する必要書類については、上述の通り、管轄の領事館によって要求される書類が異なる可能性がありますので、申告を行う予定の(=住所地を管轄する)駐日韓国総領事館に電話でお問い合せをされる等の方法により、事前に必ずご確認ください。
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